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浦田直也ロングインタビュー 浦田直也ロングインタビュー

INTERVIEW

2017年4月26日(水)にリリースされるurata naoya (AAA)のオリジナル・アルバム『unlock』。音楽への愛、作り手への敬意をしのばせた静かな筆致で数々のトップ・アーティストを紹介してきた音楽ライター・藤井美保のインタビューで、本作に込められた浦田直也の想いに迫ります。

text by 藤井美保 photo by 小境勝巳

自分の中だけにある真実。本当に作りたかったもの。 自分の中だけにある真実。本当に作りたかったもの。

---では、私がハッとした「虚像」にいきましょう。無機質なピアノ・サウンドとズバッとくる言葉が印象的で、ちょっとシニカルな焦燥感を感じました。

浦田 デモを聴いたとき、瞬時に書きたいことが浮かびました。最初はAメロ、Bメロ、サビ、Dメロといった構成の曲だったんですけど、言いたいことと重なったときに、BメロもDメロもいらないなと思った。すぐその場で「Aメロ2回のあとすぐサビにいって、2番はAメロ、サビ、3番もAメロ、サビ、最後にもう一度Aメロに戻って、途中で終わりたい」と言って、試しにデータを切り貼りしてもらい、最終的に作曲の大西さんに整えていただきました。

---そうだったんですか!

浦田 大西さん、最初は「難しいこと言ってくる人だな」と思ったそうです(笑)。でも、「出来上がり、メチャいいです」と言ってくださいました。とにかく、この曲には物語感はいらないと思ったんです。極端にいえば、意味のない言葉をストレス発散のために叫ぶだけの歌詞でいいと。たぶん、この詞のように思うことが、人間一回はあると思うんです。若い人たちが聴けば、「スゴイこと言ってるな」と思うかもしれないけど、「いや、あなたも大人になっていけば、絶対こういう経験するから」と言いたいですね(笑)。

---この曲があるからこそ、「隣」、「愛」と至ったときに、「ああ、よかった」ってなんか思えるんです。

浦田 「隣」もラブソングではあるんですけど、主人公は自分で、「ちょっと失敗だったな」と思うくらい、これまでの恋愛表現を間違えてきちゃった人。爽やかな曲に聞こえますが、実はけっこう限界まできてる恋愛を描いてます。「愛」はもうこの曲調からしてトリックを使っても意味がないなと思いました。というより、「裏がありそう」などと探られちゃいけない曲だなと。だから何も飾らずに、「好き。一緒にいてくれてありがとう。これからもよろしく」を伝える歌詞にしたんです。

---すごく素直に聴けました。個人的には、サビのベースの音にヤラれました。

浦田 ね! 今回はリズム録りのときも、思ったことをストレートに言わせてもらいました。楽器もできないし、楽譜も読めないし、音楽用語もわからないから、「ここはもっとベースの音デカくしてくれますか」とか、「ドラムもっとガチャガチャ叩いてもらってもいいですか」とか、そんな子供みたいな言い方しかできないんですけど(笑)。

---音にも浦田さんの意思が反映されてるんですね。

浦田 「ワッ、ドキッとする!」っていう音に対する僕の感覚が、実際CDを手にとってくれた人たちにとってもツボになってくれたらいいなと思ったんです。こうプレイしてもらいたいというのがあるのに、「音楽用語がわかんなくて恥ずかしいから言うのやめた」ではダメだなと。

---そこで言わなかったら『unlock』じゃないですもんね。

浦田 そう! スタジオでの様子は、「unlock Making Documentary」に入ってるので、ぜひ観てほしいです。「タタタタタをドンに変えてもらっていいですか」とか「そこカッカッカにしてください」とか「そのほうが心臓をツンとやられる感じです」とか、いろいろ言ってます(笑)。

---浦田さんのなかにライブのイメージもあったわけだし。

浦田 そうなんです。「ライブで歌うときに、たぶん手をこうやって振り下ろすだろうから、ここはシンバルを叩いてほしい」とか、「この歌詞は柔らかく歌いたいから、音も柔らかくしてほしい」とか、思ってることは全部ちゃんと口にしました。

---バンドさんたちも楽しかったんじゃないかな。

浦田 大御所の方たちなんですけど、「まるでオーディションみたいだね。久しぶりだよ、この感覚」と楽しんでくれましたね。

---歌入れはどうでしたか?

浦田 「虚像」と「真実」はほぼ一発録りです。最初は、ツルッと録ったあとにブロックごとに直しをしてたんですけど、それを並べて聴くとなんかパワーがなくなるんですよ。そう感じたときに、今回のアルバムはべつに声がきれいじゃなくてもいいと思いました。歌いこんでいけば疲れも出るけど、その疲れが見えてもいいのかもと思ったんです。そこから、「止めずに一発でやってみよう」と。そうすると気合が入って、やっぱり違うんです。

---絶対そうだと思います。

浦田 実は、バンドさんのリズム録りのときも、聴いてたら歌ってみたくなって、歌わせてもらったりもしました。

---仮歌のあるリズム録りは、最近なかなかないんじゃないかな。

浦田 そうみたいです。バンドさんたちは「仮歌してくれるんだ」と驚いてたんですけど、僕は「してくれるとかしてくれないじゃなくて、ただやりたいんです!」と(笑)。なんか気合が声量になったみたいで、「声出てたね。ヘッドフォンごしに生声が聴こえてたよ」って言われました。

---その経験が、歌入れ本番でも生かされましたか?

浦田 自分では歌い方を変えたつもりはなかったんですけど、「いつもと全然違う。倍以上声が出てる」とスタッフさんに言われましたね。音に引っ張られることってあるんだなぁとつくずく思いました。

---ましてや自分の言葉だし。

浦田 そうですね。軽い気持ちで言ってるんじゃないというのが、自然と声に出てたのかもしれません。

---最後に「真実」について聞かせてください。

浦田 それこそ、こういうことあったよと『unlock』した曲です。大人になっていくと、本当は可笑しくないのに、みんなが笑うから一緒に笑わなきゃって思ったり、みんなが「感動した」って言うから、とりあえず「感動した」って言ってみたという瞬間がありますよね。上司の発言に「スゴいですね」と口では言っても、心のなかでは「全然スゴくねぇよ」って思ってたりすることも。でも、その「スゴいですね」の表面の一言が他の人たちの反感を買って、自分の真意とは裏腹に悪者扱いされてしまうこともある。逆に、本当のことを言ったのに、「アイツはおべっかのために嘘ついてる」と言われてしまうことも。恋愛でも仕事仲間でも友だちでも、それが原因で離れることがありますよね。つまり、真実って人にはわからない。結局は自分のなかにしかないんだなということを感じて書いた詞なんです。

インタビュー写真02

---いろいろつきつけられました。さて、タイトルの漢字シリーズはどこからきたんでしょうか?

浦田 今回歌詞にはいっさい英語を使ってないんです。アルバム・タイトルのように英語を検索して、ただカッコつけるために置き換えるのでは、本当の言葉を歌っていることにならないなと思って。曲タイトルに関しては、そこまでこだわっていなかったんですけど、最初に出来た曲に自然と「空」という漢字のタイトルがついた。次に出来た曲は、ラストサビのブレイクの「真実」という歌詞が印象的だったから、「真実」というタイトルにした。と、ここで、漢字縛りが出てきました(笑)。

---それも偶然の産物なんですね。いろんな部分で手応えのある作品。作り終えて、自分を解放できましたか?

浦田 できました。ホントに悩まなかったんですよ。書きたいと思ってたことがあって、それに合う曲にちゃんと出会えた。悩んでたら絶対どこかで妥協するところが出てくるけど、今回はどれも「本当に作りたかったのはコレだ」と思えるものになった。トントントンと止まることなく、早いスピードで作り上げることができました。

---何か自分自身を確認することができましたか?

浦田 歌詞をディレクターさんに見せるときはいつも、「何言ってるかわからないって言われたらどうしよう」っていう単純な緊張感があるんですけど、今回はそれに加えて、「ワッ、コイツこういう性格なんだ」と思われるのがちょっと怖いと思ってました。しかも、「全部書くから引くかもよ」なんて前置きまでしちゃってたから、どんな反応になるか実は不安だったんです。でも、それを「いい」と言ってもらえたうえに、「みんなが我慢してる言葉を、歌という武器に乗せられるんだから」と背中を押してもらえた。そこで、ああ、もう自分の中身に関してはカッコつける必要はないんだなと思いました。嫌なら「嫌」と言えばいいし、寂しければ「寂しい」と口にすればいいし、ツラいときは声を出して泣けばいい。そう心から思うことができました。

---まさに解放ですね。

浦田 なんかもう、日記を見せても恥ずかしくないという感覚です。むしろ10年後、「あ、30代半ばってこんなことを思ってたんだ」と思えるようなものを書いたほうが、自分でも楽しいということに気づきました。暗いと思われたらどうしようとか、そんな不安も一気になくなりましたね。全部出したら、逆に、「私もそういうことあります」と言ってもらえる気がして。つまり、みんな一緒なんだと。

---その気づきによって、何か人間関係みたいなものも変わってきたりしましたか?

浦田 友だちでも家族でも、無理せず嫌なものは嫌と言えるようになったし、今までだったら言えなかった「ありがとう」も自然と言えるようになりました。

---これからの人生が楽しみですね!

浦田 10代は夢のために頑張って、20代は30代を楽しむために頑張ってきた。30代はこれからめいっぱい好きなことを頑張って、40代でラクしようと思ってます(笑)。

---さてラクはできるんでしょうか?!

浦田 30代半ばでこうして解放でき、周りから自分がどんな人間かわかってもらえたら、あとは努力次第ですよね(笑)。

---5月と11月のソロ・ツアーは、どんなものになりそうですか?

浦田 このアルバムがメインですが、5曲しかないので、おのずと今までの曲もメニューに入ってきます。今だからこそのアレンジで、今の気持ちで歌いたいです。

---『TURN OVER』の頃のR&B色がどう変わるのか楽しみです。

浦田 20代前半は大人ぶろうとしてたので、今聴くと「なんでこんなに軽く歌ってるんだ」と思ったりします(苦笑)。今ならもっと説得力を出せるんじゃないかと。CDでも自分を解放しましたが、生で表情を見ながら聴いてもらうと、まだ出せてない部分が見えてくるかもしれません。山あり谷ありも見せ、一緒に笑い合うところもあり、最後はやっぱりちょっと気になるという影の部分も余韻で残せたらなと思ってます。「ホントは何を考えてるんだろう?」と思ってもらうことで、来てくれた人たちそれぞれが自分自身を見つめてくれたらうれしいです。

---やりたいこととやれることが合致してきた感じですね。

浦田 ソロで恥ずかしくないと思うことができたんだから、グループでもそれをやれるはずだし、そしたら僕をさらに知ってもらえるんじゃないかと思うんです。ファンの方に対してだけじゃなく、メンバーに対してもそう思います。「『unlock』を作って、なんかこの人変わった」と思ってもらえる瞬間が出てくると、グループの活動にもまた違う面白さが出てくるのかなと、そんな期待もしてます。
藤井美保(音楽ライター)
大学卒業後、音楽関係の出版社を経て、作詞、作曲、コーラスなどの仕事などを始める。ペンネーム真沙木唯として佐藤博さん、杏里さん、鈴木雅之さん、中山美穂さんなどの作品に参加。その後、音楽書籍の翻訳なども手がけるようになり、93年頃からはライターとしてのキャリアも。

RELEASE

  • release01
  • 2017.4.26 On Sale 『unlock』