今年の春、いつものようにソウルのCDショップを訪れると「古家さんが好きそうなアルバムが出たんだけど聴いてみませんか?」と何気なく差し出されたのが、プロジェクトグループ“Standing Egg"の第2集『LIKE』だった。正直、ノーマークだったが、CDプレーヤーの再生ボタンを押した瞬間、一気に魅了された。ここには、日本の90年代の音楽界で名を馳せた、名だたるシンガーソングライターたちが作り上げた、様々なジャンルの音楽が“Standing Egg"というフィルターを通して、より濃縮され、歌詞は韓国語となり、新しい息吹を吹き返していたのだ。古くはイージー・リスニングの世界から、フォーク、レゲエ、ファンク、ポップ、ジャズなど、一見どんな音楽を志しているのか理解できないかもしれないが、そこに通っている共通点は、アコースティックな表現手法を用いていること。機械的な音を避けることによって生まれる、懐かしさと心地よさ、そして心をギュッとつかんで離さない音楽がそこにはあるのだ。では一体、この“音"はどのように生み出されているのか。さらにユニークなのが、メンバー名がegg1号、2号、3号で、一切写真を出してのプロモーションは行っていない。そこにはどんな意図があるのか。今回、彼らの所属レコード会社にコンタクトを取り、ソウルで中核メンバーである、egg1号、2号のお二人にお話を訊くことができた。
Egg1号:そもそも僕と2号は2人とも作曲家として、韓国のアーティストに曲を提供したり、新人の歌手を育てたりしていたんです。ドラマのOSTなんかも手がけていたんですが、2009年に自分たちのグループを作って、自分たち自身がやりたい音楽をやろうと決めて、2010年に最初の作品を発表するに至ったんです。
Egg2号:作曲家時代は、すべてのジャンルの音楽を手がけていましたね。いわゆる大衆音楽というものです。ですから、自分達が音楽をするときは、自分たちにしかできない、出せない音を出そうと。確かにおっしゃる通りで、僕らの音楽は日本の90年代から2000年代前半の魅力ある音楽がたくさんあった時代の音楽から、かなり影響を受けていますし、そのイメージに近いものがあると思います。というのも、韓国の音楽は、例えばバラード音楽だと、かなり深い悲しみを表現することで、その感情を表現することが多いんですけど、日本の音楽は、悲しいけど未来が感じられる、そして最後には温かい微笑みが感じられる、なんと言うか、故郷の持つ温かさが、曲に漂っているんですよね。僕らは、そんな音楽が大好きなんです。韓国的ではないかもしれませんが、それでも韓国で自分たちのような音楽が受け入れられているということは、そういう世界観が好きな人も実は多く存在するという証なんだと思うんです。
Egg2号:コロンブスの卵です(笑)。誰にでも出来そうなことであっても、最初にそれを行うことは難しいことですよね。つまり韓国の音楽界で他の人が出来そうで出来ないことをやってみようという思いが込められています。最近、ただ歌手になりたいという想いだけを持っていて、どんな音楽をやりたいかというビジョンを持たない歌手が多いような気がするんです。何のために音楽をするのか? こういう音楽をしたい! というそんな強い想いを、僕らは持って、音楽をやろうではないか・・・と。それが僕らにとっては、アコースティック音楽だったというわけです。
Egg1号:アーティストイメージのイラストも、“卵を立たせる"というコンセプトをどう表現するか迷ったんですが、ちょっと変わった感じがいいのではないか・・・と、卵を擬人化させて、本当に立たせる(笑)という・・・。
Egg2号:ちょっと変わった卵は、自分たちの音楽は唯一無二なんだという意味合いもあります。そして、卵をただ立たせるだけではなく、その隣にそっと少年を立たせているんですね。この少年は、僕らの音楽を聴いてくれる人、支えてくれる人を指しています。つまり、立っている卵を支えてくれる人がいて、自分たちは好きな音楽が出来ているということです。
Egg1号:もし僕らがアイドルグループで、ダンスミュージック中心に活動しているグループならば、その必要性はあるかもしれませんが、僕らがやっている音楽は、基本的にアコースティック音楽ですから、音楽を聴いて「あ、これStanding Eggの音だよね」って言って、音楽で評価されたり、判断されたりする方が、重要だと思うんですね。ですから、あえて出す必要はなく、むしろそういうことに神経を注いでもらうのではなく、集中して音楽を聴いてほしいということです。
Egg2号:実は、僕らのイラストイメージやアートディレクションもすべて自分たちが手がけているんです。
Egg1号:僕は中学2年生の時に、ギターに触れたときからでしょうか。それからマイケル・ジャクソン! 彼から受けた影響は大きいですね。それからマドンナ。つまり欧米のポップミュージックですね。でも日本の音楽も小さいときからよく聴いていましたよ。オリコンチャートやビルボードチャートを観て、チャートを参考にあらゆるジャンルの音楽を問わずして聴いていましたね。
Egg2号:僕もマイケルが好きで、実は1号兄さんと話が合ったのは、マイケルの話題からだったんですね。それからBoyz II Men! 中学生になって、日本の音楽も本当にたくさん聴きましたね。いい曲、多いですよね。特にバンドの曲はよく聴きました。Mr.Childrenとか・・・当時は、日本の音楽を自由に聴けるような環境ではありませんでしたから、どうやって聴こうかという探究心も音楽を聴く楽しみの1つでした。今も日本の音楽はよく聴いています。
Egg1号:自分たちでは歌詞はかけないという判断から、作詞できる人を探していたんですね。アコースティック音楽を中心に、楽な気持ちで聴ける音楽をと思って、自分たちでも歌詞を書いてみたんですが、曲は1日2曲でも3曲でもかけるんですけど、どうしても歌詞がかけないんですよね。
Egg2号:そこで、僕が以前から知っていた知り合いで詞のかける人がいたので、自分たちの世界観を理解してもらって書いてもらうようにしています。これによって僕らは音楽を書くことに集中できるようになったんです。
Egg2号:何かテーマを持ってアルバムを作ったという訳ではないんですね。実は以前、日本のレコード会社から、日本のアイドルの曲を書かないか? というお話をいただいて、何度か書いたことがあったんですが、実際に使われることはありませんでした。その時に感じたのは、誰かのために曲を書くのではなく、自分たちのために自分たちがやりたい音楽を素直に表現しようということだったんです。そして、“Standing Eggのような音楽"と言われる作品を作ろうと。アルバムタイトルの『LIKE』にはその“〜のような"という意味も含まれていますし、自分たちが昔よく聴いて「こんな音楽をやりたい」と思った、自分たちの好きな音楽という“好き"という意味もこのタイトル『LIKE』に含まれています。
Egg2号:僕らは玉置浩二さんが大好きで、日本のコンサートにも行きました。彼の音楽のように、いつまでも愛される曲を歌い続けるって、凄いことですよね。多くの人と共感できるような・・・そんな曲を自分たちも多くの人に届けることができたら・・・。そんな思いでこのアルバムを作りました。
Egg1号:おっしゃる通りで、デイリーチャートでTOP10にランクインできるインディーズのアーティストは少ないんですが、韓国でも、僕らのような音楽を求めている人がいるという結果だと思うんです。90年代の日本の音楽にハマっていた人が関心を持ってくれることもその背景にあると思います。
Egg2号:とはいっても、テレビの音楽番組に出演している訳でもないし、積極的にプロモーション活動をしている訳でもありません。でも、偶然道を歩いていて耳に入ってきた音楽が“Standing Egg"の音楽だったんだという感じで、僕らを知ってくれる人が多いんです。
Egg1号:「音源だけ発表して、どうやって稼ぐんだ?」と周りはよく言いますけど、一生懸命いい音楽を作れば、しっかり伝わると思うんです。幸いにも韓国では今、音楽プロモーションにSNSを活用することが多いので、twitterなどのコミュニケーションツールで、ファンの皆さんとの対話は常に大事にしています。日本にもファンがいるんですよ! 世界中の国から「Standing Eggの曲はいいですね」という声が届くので、凄い時代になったなぁと感じています。
Egg2号:それからライヴを行っています。1ヶ月に約1回の割合で。ファンと直接会う機会を持つこと、つまりアナログ式の活動が、ネットの時代の今だからこそ、求められているのかもしれません。
Egg2号:300から500席規模の会場で、ファンとの距離感を大事に、感情をしっかり伝えられる距離で行っています。ライヴは、まるでラジオのオフラインヴァージョンのように、僕らのトークと音楽をミックスした感じで、毎回行っています。大きなフェスティバルに参加することもありますが、大きな会場で、年に2、3回ライヴをすることが自分たちにとって決して良いことだとは思えないんです。最初は10人、20人だけを前にライヴをしたこともありますが、少しずつでも、自分たちの音楽を丁寧に伝えていけば、理解してくれるという自信はありました。今ではチケットを発売してすぐに売り切れになるまでになりました。
Egg1号:「CDを作って、何か意味があるのか?」と確かによく言われます。韓国の場合、例えCDを買ったとしてもCDプレーヤーで聴いてくれている人はまずいないと思います。韓国の音楽界は完全にデジタルの時代を迎えたので、CDを出すことはビジネス的に無意味かもしれません。でもミュージシャンにとって、アルバムを形として出すことは、1つの作品として世に出すということになるので、やはりこだわりはあります。
Egg2号:CDの場合、音楽だけでなく、それにあう世界観を作ることが出来ますよね。CDの形やジャケットのデザインなどなど、こだわれる要素はたくさんありますから。だからといって、デジタル時代を逆行するようなことは出来ないんです。韓国ではデジタルをやらないと、音楽業界で勝負ができませんから。ですから、僕らは、決まった形で、作品作りをすることはもちろん、いい曲が出来たら、時期を待たずレコーディングするんですね。そして、できるだけ早く、作品をデジタルで発表する。ですから、そういった曲を集めて、CDアルバムにしようというプロジェクトも進行しています。
Egg1号:日本のようにCDを買う人が多い環境は、本当にうらやましい。韓国の場合、1週間でチャートが大きく変わります。音楽を長く聴くというより、街中で耳にするノイズや音楽のように、さっと耳を通り過ぎていっている音楽が最近は多いような気がします。なので僕らは、自分たちの音楽が多くの人の愛蔵品になるように、ある意味ファンサービスの一環としての意味合いも持たせて、CDを出しているということもありますね。
Egg2号:もちろんですよ。ライヴをまずはしたいですね。
Egg1号:台湾やタイのレコード会社からのラブコールはいただいています。ぜひ、日本でも僕らのアルバムを出してくれるところがあれば(笑)。とりあえず、ライヴを通じて、僕らの音楽を日本の皆さんにも知ってもらいたいです。きっと共感してくれると思いますから。
メンバー/Egg1号、Egg2号、Egg3号
2009年に作曲家・音楽プロデューサー・シンガーソングライターとして活動していたEgg1号とEgg2号が意気投合し結成。そして、作詞家としてEgg3号が加わり、Standing Eggとしての活動が本格的にスタート。2010年4月にシングル「Standing Egg」を発表。同11月に第1集『with』をリリースし、その高い音楽性とポップセンスに注目が集まる。2012年4月には待望の第2集『LIKE』が、韓国インディーズ界で大きなヒットを記録。最新曲は、9月に配信されたシングル「time goes by」。
(公式サイト)
http://www.standingegg.com/(韓国語)
me2day(韓国SNS)
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