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“ロック”という韓国では未だにアンダーグラウンドな音楽ジャンルを、まさにメジャーなものへと昇華させた功労者として、本国で絶大な人気を誇るロックバンド「Nell」。ヴォーカルでギターを務め、Nellの音楽の核を作り上げているキム・ジョンワンを中心に、ドラムのチョン・ジェウォン、ベースのイ・ジョンフン、ギターのイ・ジェギョンの4人からなる彼らは、韓国の“COLDPLAY”と呼ばれ、そのUKロックテイストなサウンドは、国内外で早くから注目を集めていたが、そんな彼らがついに日本上陸を果たした。 |
99年に結成し、2001年にアルバムデビュー。ソウルのインディーサウンドの中心地、ホンデ(弘益大学前)でライヴ活動をしながら、その才能を、あの韓国音楽界の改革者、“文化大統領”とまで言われたソテジに見いだされ、そんなソテジの会社から第2集『Let It Rain』をリリースし一躍脚光を浴び、ホンデのインディーシーンから、一気にメジャーシーンへと躍り出た。その後もコンスタントに作品を発表し、アルバムを発表する度に、ロックの地位がまだまだ音楽界の中で異端的な扱いを受けている韓国の中でも大ヒットを連発。今や韓国のロックシーンに、そして音楽シーンに欠かせない存在となっている。そんな彼らが、韓国男性の宿命でもある軍隊に入隊、そして除隊を経て4年ぶりに発表したのが、今回、日本でも発売されたアルバム『Slip Away』である。
また最近、ヴォーカルのキム・ジョンワンは、その高い音楽センスが認められて、様々なところから引っ張りだこ。特に、フィーチャリング・ヴォーカリストとして、LeessangやBIGBANGのG-DRAGONといったアーティストとのコラボレーションや、作家として、現在、同じ事務所に所属している人気アイドルグループ、INFINITEのソンギュのソロアルバムに曲を提供するなど、アイドルや他の実力派アーティストとのコラボレーションも話題を呼んでいる。こういったところから、彼ら「Nell」の名前を知ったという人も少なくないのでは。
今回は、そんな彼らに「Nell」の音楽的原点、そして、その魅力について直接話をきいてきた。
ジョンワン:ありがとうございます。僕らにとってこのアルバムは、4年ぶりに制作した久々のフルアルバムです。その空白の時間に得たもの、感じたことを良い形で凝縮できたアルバムに仕上がっていると思います。ですから、1曲1曲、これまでのアルバムに収録されていた曲とは違った雰囲気の曲が収められていると思います。
ジョンフン:年を重ねて生まれる、円熟感とでも言えばいいでしょうか。セクシーな感覚とか・・・そういった感覚を、この間に学んだといえば良いでしょうか。
ジェギョン:その分、より幅広い方に、聴いていただけるような、そんな作品になっていると思います。
ジョンワン:僕らは、中学生の時から親しいわけですが、18歳の時から一緒に本格的に音楽を始めて、ホンデの小さなクラブから音楽活動を始めて、少しずつ、いろんな人に、自分たちの音楽を聴いてもらえるようになって、フルアルバムを発表するようになってからは、より大きな会場で、多くの人に聴いてもらえるようになって、自分たちの音楽を広げてきたわけです。今回、この『Slip Away』というアルバムが、日本でも発売されたことは、そういった自分たちの過程において、とても特別な意味があると思っています。さらにより、多くの人に僕らの音楽を聴いてもらって、ライヴをできる訳ですから。今回のアルバムリリースをきっかけに、それが可能になるということは、本当に嬉しいことです。
ジョンワン:まず僕らが音楽を通じて表現したいことは、普段なかなか話せない出来事を、音楽を通じて表現したいということなんです。僕自身の性格が、明るくて、話したいことを何でも話すというタイプではないので、そういった感情を、音楽を通じて、表現したいという思いをもって音楽に接しています。
ジョンワン:自分たちの音楽的魅力については、何かこう、ジャンルに特化した音楽ではなくって、人が日記を書くように、その時々に感じる感情を音楽で表現しているので、誰もが感じることの出来る感情が、そこにはあると思うんですよね。ですから、多くの人が、僕らの音楽を聴いて、共感してくれるんだと思うんです。
ジェギョン:僕らはずっと、韓国で活動してきたわけで、海外でライヴをした経験は、そんなに多くはないんです。ですから、新しい空間で新しい人に出会い、僕らの音楽ができるということは、とても新しいことですし、とてもエネルギッシュな出来事だと思います。
ジェウォン:それから、多様性を受け入れる人が多いと感じましたね。そして、秩序をしっかり守っていらっしゃる姿が印象的でした。とても楽しかったです。
ジョンワン:大阪は、本当に暑かったです・・・(笑)。自分たちにとってライヴというのは、いちばん、カタルシスを感じる瞬間。僕らだけにある瞬間を表出できる時ですよね。僕らが話したいことを話せて、奏でたい音楽を100%奏でることができる。それができる空間ですから、カタルシスを感じ、満たされた瞬間だと思います。一生、僕らが持って生きたい、自分たちにとっての遊びといえば良いでしょうか。
ジョンワン:確かにおっしゃる通りですが、とはいうものの、以前よりは、多くのバンドがアンダーグラウンドからメジャーへとその活動の場を移している流れもあります。ですから、僕らも嬉しく感じてはいますが、その一方で、まだ、大衆におけるロック、バンド音楽に対する認識が、一元的なところがあると思います。例えば、ロックバンドは、うるさい音楽しかやっていないとか、ライヴでお客はヘッドバンキングばかりをするとか、そういう風に思っている人がいるんですね。そういった点を、最近のバンド達が「そうではない」という考え、そして事実を定着させようとしている・・・まさに韓国はその最中だと思うんです。
ジョンワン:去年12月に、1部としてシングルを発表しましたが、今も常に、その作業を行っています。制作作業は常に行っている感じです。もう少しで、録音作業のために、スタジオに入るところです。9月か10月には、この3部作のまとめとして、フルアルバムを発表する予定です。
ジョンワン:ほとんどが、アーティスト側からの提案です。僕自身も、自分たちの人間関係以外とのつながりから得られるこういったコラボレーションから得るものは多いですよ。確かに、コラボレーションのし過ぎは、それなりの代償を考えなければなりませんが、どこまでが限界かという線は、自分自身で良くわかっていますから。ただ、アイドルたちとのコラボレーションでは、彼らのアイドルというプロフェッショナルな世界で活躍している“プロ”ですから、その世界から得られるものは、バンド活動だけしていては決して得られないものです。一方で僕らが“音楽的に”彼らに提供できるものもありますから、その点で考えると両者にとってWin Winな点は多いんじゃないでしょうか。
ジョンワン:音楽とは、決して終わらないものだと思います。アルバム制作の際に、自分としてはかなり一生懸命やっているつもりではいるんですが、リリースされた後に、ここをこうしておけばよかったと後悔するところも、毎回出てきますし・・・。ですから、そういった残念だったと思うところを最低限に抑えることが、自分自身の音楽的目標、到達点だと思います。そして、これからも4人は、友達でありがなら、音楽を奏でる同僚として、一緒に歳を重ねていければと思います。そして、ファンの人たちと一緒にそれを共有できることが、僕らにとって、一番の喜びではないかと思うんですね。ですから、これからもアルバムを通じて、ライヴを通じて、お酒を一緒に飲めるような友達とは違いますが、音楽を通じて、そういった関係を築くことができればと思っています。
1980年生まれの同級生で1999年に結成。ジョディー・フォスター主演の映画「Nell」からインスピレーションを受け、Nellと命名し新村やホンデのクラブを中心に活動開始。インディーズ・レーベルからアルバムを発表し、その繊細なメロディーとバンドサウンドの融合が話題を集め、マニア的な人気を獲得。その後、2002年にあのソテジが企画したロックフェス「2002ETPFEST」に参加後、ソテジカンパニーからメジャーデビューアルバム「Let it rain(2003年)」を発売し、その完成度の高いサウンドは、各方面から絶賛され、確固たる地位を獲得。現在に至る。