『ANCIENT FUTURE』は音楽家の坂本龍一と電子音楽のパイオニア、クリストファー・ウィリッツによるコラボレーション作品第2弾である。
2008年に最初のコラボレーション作品『Ocean Fire』がリリースされた後、坂本がウィリッツに送ったいくつかのピアノ楽曲を構築してできた作品。
『Ancient Future』は創造、人の運命を遂げこの世の全てが経験するもの、そして、心の内の葛藤、問題の解明、答えを受け入れることといった軌跡全てを包括した作品と
して機能している。
6つの楽曲のサイクルは、、語られるべきストーリーを持ち、探求されるべき生命の一部を物語る作品として、ある種の物語の間を行き来する。
アルバムは「Reticent Reminiscence」というたゆまぬエネルギーを持った曲から幕を開け、「Abandoned Silence」「I Don't Want to Understand」という内へ内へと向かう音楽に深く身を委ねる。そして「Levitation」により冷たくばらばらに解離する。
太陽の光のように淡いギターアルペジオが鳴る「Releasing」で確かな暖かさが戻り、このアルバムの流れは最後に「Completion」という平穏に満ちた曲へと変わり幕を閉じる。
これは、おそらく、人が最後には自分自身を悟るというような経験を表しているのではないだろうか。
コンセプチュアルな一貫性があるにもかかわらず、『Ancient Future』というアルバム・タイトルが表しているように、その中心には矛盾が介在し、それぞれの曲の中でも相反するものが登場する。
たとえば、穏やかな湖の湖面に徐々に波紋を拡げていくように繊細なメロディーのバックに雑音のループとフィードバックがある。だがその矛盾は決してコンフリクトではなく、わたしたちは経験や知識の集合体であり、光と影、ポジティブとネガティブの両方を持ち合わせている、といったこのアルバムの本質となるロジックを生み出すために、様々な要素が集まっているのである。