葉加瀬太郎 25th Anniversary アルバム『DELUXE』〜Best Duets〜リリース記念特集

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日本を代表するヴァイオリニストのひとり、葉加瀬太郎。テレビやラジオでの軽快なトークや、にこやかな笑顔を思い浮かべる読者もおいでになることでしょう。
デビュー25周年を迎えた彼が発表したのは、魅力的なアーティストたちとの共演ばかりを集めたデュエッツ・アルバム。アルバム制作時のお話や、この作品を携えて秋から行われる全国ツアーへ掛ける想いをうかがいました。

デビュー25周年おめでとうございます。まずはいまの心境をお聞かせください。

10年、15年、20年とまわりの方たちが「今年はアニバーサリー・イヤーですよ」と言ってくださるんですが、実感は正直あまりないんです。去年の続きが今年…とひたすら毎年やってきて、振り返ってみたら四半世紀が経っていた、という感じで。でも、このところ1年間が感覚的に短くなっている感じはします(笑)。年を取ればみんな同じだと思うんだけど。だから昔はあまり長生きとか興味なかったんだけど、まだまだやりたい事がいっぱいあるんで、長生きしなきゃいけないんだなってごく最近思い始めました。今年の春にデビュー当時に活動していたバンド、クライズラー＆カンパニーの再結成をして、最近やってなかった途中に休憩の無い2時間超えのライヴ・ツアーをやるってことになって。これはいい機会だと1年かけてウォーキングや食事に気をつけて15キロ痩せました。いまは自分のソロ・ツアーに向けてベスト体重に調整しているところです。

25周年記念アルバム『「DELUXE」〜Best Duets〜』を発表されましたが、これはどのようなコンセプトで制作されたのでしょうか？

25周年を記念してオリジナル作品を作るって話もあったと思うんですけど。そうではなくて、これまでにやってきたものを集めて作ったらいいんじゃないかって事務所の社長が言ってくださって。これは僕にとってはお祝いのご褒美みたいなものですよ。オリジナル・アルバムを作るとなると、半年から1年くらいかけて忙しくもなるしね(笑)。
それで、今まで録音したものを全部データを集めてきて選曲したんですけど、自分がいままでやってきたものを聴くと節操ないなって(笑)。ジャンルだけでもいろいろあるよね。セリーヌ・ディオンがあって、安室(奈美恵)ちゃんがあって、アリアナ・グランデでしょ。この3曲だけでもスゴイんだけど、巨匠・モリコーネ先生も入ってる。だから今回、一番苦労したのは曲順です。あとマスタリング！ 録られている年代が違えば、国やスタジオも違うから、音質なんかはまったく違ってて。それに他のメーカーさんからお借りした音源はオリジナルのままでいじっちゃいけないっていう制約とかもあるから。これを1枚のCDにするっていうのは大変な作業でした。

そんな中で、特に思い入れの深い楽曲を3曲選ぶとしたらどれでしょうか？

まずは「TO LOVE YOU MORE」でしょうね。セリーヌ・ディオンとの出会いがなければいまの自分は無いと思うし。この曲を制作・発表したのはクライズラー＆カンパニーの解散時期と重なっているんだけど、ソロになって初めて、多くの方に聴いていただけるきっかけをくれた曲でもあります。まさに忘れられない一曲です。

それから思いもよらなかったという意味で「ベイビー・アイ feat.葉加瀬太郎」。普通、自分の人生でアリアナ・グランデと共演するなんて、まずありえないよね。元々は娘が彼女の大ファンで。去年の1月にアリアナが初来日した時、J-WAVEの生放送にゲストで来るっていう情報を聞きつけた娘が「パパ、連れて行って！ J-WAVEでいつも番組やってるよね？」って(笑)。仕方がないので連絡しましたよ。「申し訳ないんだけど、アリアナが出ている番組のスタジオを見学させてください」って。その時に紹介していただいて、翌日に渋谷でやったショーケースライブを見に行った時に、改めて自分のアルバムをプレゼントしたんです。それでセリーヌ・ディオンとやった「TO LOVE YOU MORE」のヴァイオリンは僕が弾いてるんだよって言ったら「ええっ！ あの曲大好きで子供の時から歌ってたの！ あのヴァイオリン、アナタなの!?」って喜んでくれて。それから2ヶ月後くらいに日本版のアルバムにスペシャル・エディションを入れたいから一緒にコラボしてくれませんか？ってお話をいただいたんです。これは娘のために…というかパパの得点が稼げるなってことで(笑)ぜひやらせてください!!って感じでやらせていただきました。

3曲目は…。対極という意味でモリコーネ先生と演奏させていただいた「Once Upon A Time In America デボラのテーマ」じゃないでしょうか。小学校の時からクラシック音楽以外だと、60-70年代のヨーロッパの映画音楽が大好きでそればかり聴いてました。ニーノ・ロータとモリコーネが僕のアイドルだったんですよ。 今から10年位前でしょうか。モリコーネ先生が毎年日本でコンサートをしていた時があったんです。自身のオーケストラを率いて国際フォーラムで2-3日演奏するっていう大掛かりなコンサートだったんですが、そこにゲストで出ていただけませんかっていう依頼がきたんですよ。僕としては、あのモリコーネと会えるなんて！ ってことで、何でもやります!!と(笑)。
ビックリしたのは、僕にはヴァイオリンソロの楽譜だけが送られてきて。あとのオーケストラのフルスコアは送ってくださらない。それが彼の主義なんですって。アナタはこれをちゃんと弾いてくだされば問題ありませんからっていう。でもそれって、ドラマとかお芝居の台本で考えてみると、自分のセリフしか書いてないわけです。ト書きも、相手のセリフも分からない(笑)。それなのに当日のリハーサルでしかオーケストラとは合わせられないって言われて、久しぶりに本番の日にもう帰りたいって気分になりました(笑)。
で、3日間のコンサートが終わった時に先生とお話しして、今日やった曲をスタジオ・レコーディングなんてできるんでしょうか？っておたずねしたら「ならばローマにいらっしゃい」と(笑)。ローマには彼がいつも録音しているスタジオがあって、彼の音楽をずっとやっているオーケストラやスタッフが待ち構えているわけです。勝手知ったる何とやらってやつで。そこに僕だけがかなりアウェイな感じでおじゃましてレコーディングしました。しかも完全なる一発撮りでね。間違えたら全員で最初からやり直さなきゃいけないっていうものすごいプレッシャーの中で演奏したのを覚えてます。

あ、あともう一曲。今回の新録・組曲「もうひとつの京都」vocal version(森山良子）を忘れちゃいけませんね。
もとは去年、京都からの依頼で始まったプロジェクトで。京都で観光っていうと、どうしても市内の神社仏閣って話になりがちなんだけど、今後はお茶畑とか里山とか丹波の海とか、京都の自然というものをアピールしていきたいと。そのための音楽を作ってくださいと言われて制作したのが組曲「京都」でした。もちろん僕がヴァイオリンを弾くための曲として作ったんですが、それがどんどん発展してぜひ歌詞を付けた作品にしたいと。僕のヴァイオリンは、ヴァイオリンの中では歌謡的な方だとは思うんですが、器楽のメロディを的確に歌える歌手となるとどうしても限られてくるんですよ。…となるとこれは森山良子さんしかいないだろうということでお願いして実現しました。良子さんはね、僕はずっと彼女のライヴにも出たりしてるんですがずっと恋焦がれている存在なんです。彼女はね、自分の歌の全てをコントロールできるんですよ。レコーディングの間も「太郎ちゃん、このフレーズはどっちで歌えば良いかな？」ってトーンや発声法を変えて提案してくださったり。もう、見事としか言えませんでしたね…僕の中で永遠のヴィーナスです。11月には京都公演でこのvocal versionの初演が決まっているので、今からすごく楽しみです。

では今後、コラボしてみたい方はいらっしゃいますか？

ライヴでは一緒にやっているんだけどナオト・インティライミかな。彼は僕がやっている“情熱大陸”にも今年で3回出てくれているんだけど。8月1日(土)に大阪公演があったのね。僕はホスト役だから最初からずっと出っぱなしだけど、他の皆さんは自分のコーナーの時だけ来てもらえればいいわけ。でもあいつバカだからさ(笑) 18時から本番だってのに、12時くらいからずーっとバックステージにいるのよ。「ナオト、疲れちゃうから本番まで楽屋に行っててくれていいんだよ」って言っても、「楽しまないと！」って(笑)。その日、たまたまウチの息子が遊びに来ていたんだけど。子供ってずっとライヴを見てても飽きちゃうからバックステージに連れて来てたのね。これがサッカー大好きだから「ナオト、ちょっとだけごめん！」ってボール持ってきて10-20分くらい遊んでもらえたらなと思ったら、何時間でもずーっとボール追いかけてくれて。「いやいや、これから本番だから」ってさすがに止めてもらったけど(笑)。息子はさっきまでずっと遊んでくれてたお兄ちゃんがステージに出て行ったら何万人ものお客さんから「うおおおお！」ってすごい声援を受けてるのを見てガッチリ心掴まれちゃってたよ(笑)。
他にもこんなエピソードがいっぱいあるんだけど、あいつはホント、どの世代からも愛されるよね。根っから明るくて、純粋に音楽を楽しんでるし。自分の夢を追いかけるっていうのをあそこまでピュアに表現できるやつって今どきはなかなかいないよね。だから一緒に何か作れたらおもしろいだろうなって思ってます。

では最後に、9月18日(金)＠東京・調布市グリーンホールからスタートする25周年記念ツアーについて。今回はどのような内容になりそうでしょうか？

当然ながらアルバムに収録されている全ての曲を演るわけでも、すべてのゲストが来るわけでもないのですが(笑)。25周年をお祝いしてくださるってスタッフも言ってくださっているので、じゃあお祝いのパーティをやりたいなって。いままでのライヴで皆さんにかわいがってもらっている曲をやったり…それこそ「どの曲を聞きたいですか？」ってファンクラブを通してリクエストしてもらってるし、京都の森山良子さんみたいに、どなたかゲストが来てくださる会場もあるでしょうから、これはお祭り騒ぎになりそうですね。パーティの気分で作る…いつもパーティな気分で作ってるんだけど、今回は極めてその雰囲気が濃いコンサートになると思います。ぜひ楽しみにしていてください。