若い世代の圧倒的支持を集める作曲家、三輪眞弘が、1998年以降に発表した音楽論、作品解説、談話を集成。
コンピュータをもちいたアルゴリズム作曲から、《またりさま》に代表される逆シミュレーション音楽、フォルマント兄弟での活動まで、そのユニークな活動の全貌が1冊に!
巻末に全作品の目録を収載。
「コンピュータ音楽であれメディアアートであれ、「装置を使った(芸術)表現」について何かを語る際に、ぼくらは、ある装置を電源コンセントにつな ぐことから始めているという事実に注目しようとはしない。またさらに、その「コンセントの向こう」には、つまり電力が安定的に供給される背景には、地球規 模のエネルギー問題、たとえば原子力発電所、核問題、石油の利権、投機マネーはもとより中東戦争に至るまで、グローバル化した世界のあらゆる難問が果てし なく連なっていることを意識することはまずないはずだ。もちろんそんなことを考え始めたら「装置を使った(芸術)表現」どころか、平穏な日常生活でさえ不 可能になってしまうので誰も「言わないことにしている」わけだ。しかし、だからといってそれが現代の音楽・芸術が直面する未曾有の状況と無関係だと言える理由にはならないだろう。いや、それどころか現代に生きるぼくらの価値観や世界観、そしてひとりひとりの心のありようにこの現代社会の複雑な状況が深く結 びついていないはずはないのだ」
──「目次の前に」より