エキゾチックなルックスから鋭さとやわらかさが同時に伝わってくるかのような、独特な雰囲気を身にまとった女の子、おおたえみり。関西在住の20歳。幼少期からピアノを弾き始めた彼女は、なんと小学生の頃から曲作りをスタート。その最初期に作られた曲を2007年の音楽コンテストにてピアノ弾き語りで演奏した15歳の彼女は、全国7,000組の参加者のなかから、見事、グランプリを受賞。同じ時期に関西で行うようになったライヴ活動で噂が噂を呼び、2012年8月、メジャー・デビューを果たした。
まずは一度、彼女が歌う様子を観てほしい。
ピアノと弾き語りだけ、というシンプルな演奏スタイルから生み出されるのは、全く新しいタイプの芸術品のような曲たち。ミュージカルやシャンソン、ときには童謡のようにも聞こえる自由なメロディ。独特な毒っけのある、愛らしいハイトーン・ヴォイスで物語を語るように歌われる、文学少女の面影を残す歌詞の世界。
初めて彼女の映像を観た時、私は思った。「これって、すごいものを観ているのかもしれない!」と。
彼女の自己紹介を兼ねて、世に送り出されているのが、新曲5曲のライヴ映像を収録したDVDと、それとは別の曲をスタジオでバンドと録音したシングルCDがワンセットとなったDVD+CD三部作『セカイの皆さんへ』。
昨年リリースされた第一弾『セカイの皆さんへ/集合体』と第二弾『セカイの皆さんへ2/最短ルート』は、よく知る日常の風景に突然ドアが表れて、ガチャッと開いたその先には新しい世界が・・・というような、想像しなかった驚きと喜びがそこには確かにあった。それぞれのDVD、『セカイの皆さんへ』はワンピースのドレス姿のモノクロームなスタジオライヴ、『セカイの皆さんへ2』は和装風ドレス姿、趣のある日本家屋で行われたフルカラーのライヴを収録。グランドピアノの弾き語りというシンプルな演奏ながら、J-POPからはみ出したオリジナルな世界を切り取ってみせる。そして、CDは、核となるピアノとヴォーカルが伝えようとしているもの、はみ出しているものをバンドが翻訳することで、ユニークさやオリジナリティが際立っている彼女との距離をぐっと縮めるかのような印象。ただし、彼女の音楽世界はまだまだ未知数で、その謎めいた部分を解き明かそうと、何度もDVDとCDを行ったり来たり。
そこに登場するのが、今年1月30日(水)リリースの三部作第三弾『セカイの皆さんへ3/かごめかごめ'12』だ。DVDは、ピアノ弾き語りとその世界をふくらませ、ひろげる22人編成の寺嶋民哉オーケストラとの共演。彼女の生み出すメロディラインはそのままに、オーケストラのクラシカルな装いをまとうことで、オープニングの「トマトソング」からエンディングの「郵便局員タカギ」までの5曲でまた新たなドアを開けるおおたえみりの音楽世界。そして、CD「かごめかごめ'12」は、ストリングスにふわりとくるまれたバンド・サウンドが恋する女の子の心のなかをのぞき込んだような、可愛らしさと不可解さの嵐を巻き起こす、これまでで最高のポップ・チューン。まだまだ謎の多いおおたえみりの世界は、この曲から足を踏み入れてみるのもいいだろう。すでに三浦大知や安藤裕子といったトップ・アーティストたちが彼女の才能を高く評価しているらしいという話も伝わってきているのだけれど、まずはこの規格外の才能をリスナーそれぞれの耳と目で自由に楽しんでみることから始めてほしい。
突然段ボール
『ありきたりの進歩』
1977年にアートパフォーマンスの一環の即興バントとして結成。その後、パンク、ニューウェイヴに触発され、1980年にシングル「ホワイトマン」でデビュー。以来、30年以上にわたって、コンスタントに作品を発表。伝説的なグループとして数多くのアーティストからリスペクトを集めながら、現在は5人組のロックバンドとして活動する彼らがエンジニアにゆらゆら帝国やギターウルフを手がける中村宗一郎をむかえた2011年の最新作。
鈴木清順監督
『陽炎座』
国内だけでなく、ウォン・カーウァイやジム・ジャームッシュといった海外の映像作家からもリスペクトされている日本を代表する映画監督、鈴木清順が浪漫三部作の2作目として泉鏡花の同名小説を映画化した1981年の作品。大正末期を舞台に、松田優作演じる劇作家がヒロインの美しい女性との出会いをきっかけに奇妙な世界に迷い込むという幻想的なストーリーを大正ロマネスク調の映像美で描きだした日本映画界に残る名作
。
いしいしんじ
「トリツカレ男」
過去に5度三島由紀夫賞候補にノミネートされた経歴をもつ大阪出身の小説家。その作風は童話的で、そこには幻想性やある種の残酷さも含んでいるところに大きな魅力がある。そんな彼が2001年に発表した短編小説。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかりになってしまう“トリツカレ男”ジュセッペ。寒い国からやってきた風船売りの無口な少女、ペチカに恋をした彼にまつわるピュアな短編ラブストーリー。